12−イチ
  



 

「…あーー、お前、誰?」

 ナナは時々とんでもないことをやらかすことがあったが、そこに俺とナナ以外の第三者が存在していることは珍しい。どうやらナナにまかされたらしい人間は、呆気に取られたようにナナのいなくなった方向に顔を向けたままになっていたが、俺がそう聞くとその顔のまま俺の方に顔を向けた。

「名前は分かったけど、ナナの友達、じゃねーだろ?ハチが男の友達作らせるはずがねーし・・・って、学ラン着てるし男だよな?」

 限りなく女に近い顔をしているが、さすがに女の制服が学ランという高校は聞いたことがない。

「……ハイ」

「だよな。で…あぁ、もしかしてこないだバーにいたガキの後輩か?」

「え?誰それ?」

「あーー顔の綺麗な男と、メガネかけた背の高い男ってことしか知らん」

「…柏木先輩と奥野先輩?」

「名前は知らねーけど多分そいつらだ。駅のホームで知り合ったって言ってたな」

 そう言うと、目の前のガキは少し顔を緩ませた。ナナと知り合った時に何かおもしろいことでもあったんだろう。ナナはどこをどう見ても普通の女にしか見えないが、その中身ときたらかなりぶっとんでいる方だから。

 と、ふと思い当たることがあって、ガキの顔をじいと見つめた。でっかい目、色素の薄い髪と目の色、日本人らしからぬ白い肌。限りなく女に近い容姿。

「思い出した。お前、渋谷のでっかい看板にいたな」

「!!!」

 ビンゴ、らしい。途端顔を真っ赤にさせたガキは、どうやらそれについては触れてほしくないようだった。まあそうだろうなと思う。アレを見たことのある世間のヤツらは、どう見ても「女」としてしかこいつを認識していないだろう。

 そして、俺にはもう一つ思い当たることがあった。

「あの看板のもう一人の男、柏木って男の血縁だろう?」

 相当整っている部類に入るだろう顔は、どう見ても血が繋がっているとしか思えないほど似通っているし、それに、あのキレ者そうな目はそうそうお目にかかれるものじゃない。

 だが、この台詞はガキの何かに触れたらしい。

 途端、それまでとはガラリと雰囲気を変えたガキに、俺は初めて興味が沸いた。

「…じゃ、ナナに頼まれたことだし、とりあえずメシでも食いに行くか?」

「……いい」

「良くねーよ。妹に頼まれた大事な大事なオトモダチだからな、丁重におもてなししないと」

「いいって言ってるだろ!」

 そう言って立ち上がったガキの腕を、俺は容赦なく掴んだ。かなりの力で掴んだから相当痛んだはずだが、このガキは声一つ漏らさなかった。

「悪いけど、逃がさねーよ?」

「なんで!?ナナには適当に言っとけばいーじゃんか!」

「俺の気が済まない」

「は?!」

「毛ェ逆立ててる猫だな…気に入った。おにーさんが遊んであげよう」

「っっざけんな!」

 どうやら喧嘩慣れしてるらしいガキは、俺の肩に手をついて俺の体を飛び越えて逃げようとした。が、俺はこんなナリでも一応空手の黒帯だ。こんな小さいガキを捕まえておくことなどワケない。飛び越えようとした体を逆に抱きこんでやると、ガキは面白いほど手足をバタつかせた。

「っくしょ・・・離せ!」

「嫌だね」

「…アンタも!アンタもそうやって、俺のことをオモチャみたいに扱うのか!?自分の都合のいいときだけ可愛がって、すぐ突き放すんだろ!?」

「……はぁ?」

 何を訳わからんことを、とは思ったが、このまま暴れさせておくのも疲れるなと思った俺は、ガキの鳩尾に一発突きを入れてやった。途端、声もなくガキは首を垂れる。ヤレヤレ、とガキを肩に担いた瞬間、俺は目を軽く見開いた。

「なんだこの軽さは…」

 ガキは男子高校生にあるまじき軽さだった。実家にいたときに商店街の福引で当てた50kgの米袋よりはるかに軽い。

 こいつの目が覚めたらたらふく食わせてやろうと思いながら、俺はガキを担いで車を置いた場所に向かった。

 




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