タカタ君の非日常的日常

 

  

憲法第24条 

第一項     婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により維持されなければならない。

第二項     配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚ならびに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

 

 

 

前編


 

「結婚しなさい」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 学校から帰ってきて、今日も俺ぁがんばった〜と数人(カズト)が居間のソファでぐでーとなっていたところに、突然上からそんな声が降ってきた。上を見上げれば難しそうな顔をしている父親がいて、今日はずいぶん帰りが早いなと思いながら数人は体を起こす。すると向かいのソファに父親がどすんと音を立てて腰を降ろし、数人は何も悪いことはしていないにも関わらずつい姿勢を正した。

「なんだ聞こえなかったのか?結婚しろと言ってるんだ」

「・・・・・・・・や、オヤジ、あのさ、俺、結婚どころか付き合ってるコいねーよ?」

「誰がそんなことを言ってるんだ。今晩相手の家の人がお前を迎えに来るから、さっさと用意しなさいと言ってるんだ」

「・・・・・・・・・・・・へ??」

「ったく頭の悪い子供を持つと苦労するな・・・いい、ほら父さんが手伝ってやるからさっさと部屋に行くぞ」

「え、ちょ、ちょっと待てって、おい!オヤジ!」

 

 

  

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 どこだよ、ここ。
 そんな至極当然のことを思いながら、高田数人18歳は突然連れてこられた家を見上げた。そして、いや、これは家というには大きすぎるな、とどうでもいいことも考える。
 数人が見上げているのは家というより門だ。よく時代劇で出てくるような武家屋敷の門とでも言えばいいのだろうか。普通の住宅マンションの一室で育った数人には、「家」として認識するにはとにかくスケールが大きすぎる家ではあった。

「どうぞ、お入りください」

「・・・は、はい」

 数人を迎えに来た車には、運転手のほかに助手席にも一人男が乗っていた。二人とも黒のスーツを着込み、ぶっちゃけ数人の目にはヤの人にしか見えなかったのだが、その疑いはこの家を見たことでさらに深まった。
 とにもかくにも、その助手席に乗っていた男が数人と一緒に下り、そして家に入れと促している。言うことを聞くしかない状況に置かれている数人はおずおずとその男の後に続き、武家屋敷(にしか見えない)門をくぐった。

 


「…なんなんだよ、これはよ…」 

 待たされること早20分。門を抜けて見えた家はとにかくでかかったと数人は思う。そして玄関から入るのかと思いきや、突然途中で方向転換した男の後ろを焦るように着いていくと、着いた先は、さっきとは打って変わって洋風の家だった。…当然通常の数倍はデカかったが。その家の中の一部屋に通され、「お待ちください」と言われて一人取り残されたわけだが、一体全体なんだってこんなことになっているんだと、数人は頭を抱えた。

 父親が「手伝ってやる」と言いながら、ほとんど父親一人で数人の荷物をおおよそ5分でまとめ、「残りは宅急便で送るから」と言われたその30秒後、家のインターフォンがピンポンと軽快な音とともになった。
 その音に数人は父親に自分の疑問をぶつけるタイミングを逃し、まあ客が帰ってから言えばいいかと思ったその直後、当の客が「荷物はこちらですね」と数人の荷物を持って家から出て行ってしまった。それをポカンと見ているしかなかった数人だが、数秒後ハッと我に返り、「ちょ、ちょっとそれ俺の・・・」と手を伸ばして声をかけようとすれば、「ほら、さっさとせんか!」と父親に伸ばした腕をむんずと掴まれ、あれよあれよという間に靴を履かされて気付けば家の外。
 自分の状況が全く分からないまま、そのわずか数十センチ先で「じゃあふつつかな息子ですがよろしくお願いします」「いえ、こちらこそ」というどうにも理解できない会話が父親と見たこともない男の間で展開され、そして気付けばその男に促されるままエレベーターを降り、車に乗せられたというわけである。

 

「わ、わけわかんねー…」

 そう呟きながら、数人が一人座敷の座布団の上でうおおと奇声を発していたところに、ガラリと障子が開いた。その音に数人が驚いて振り向くと、そこにはやたら美形ぞろいの3人組がいて数人は軽く目を見開く。いや、3人組という言い方は多分正しくない。正確には、小学生ぐらいの可愛い女の子と、その母親だろう綺麗な40代ほどの女性、そして数人と同い年ぐらいの男がいた。

 が、数人が落ち着いて3人を見ていられたのはほんの数秒ほどだった。

「ああ〜ん、貴方がサブロウくんとヒメコちゃんの子供ねっ!!」

 母親だろう女性に、そんな台詞とともにいきなりガバリと抱きつかれ、数人はものの見事にバランスを崩して畳に背中をついた。

「やだ、トロいこの子。お兄ちゃんこのコでいいの?」

「どーでもいー」

 なんでたかが小学生程度の子供にそんな失礼なことを言われなきゃならん!とは思ったが、小心者の数人はそれを心の中にとどめて置くしかなかった。その間にも数人を押しつぶしている母親だろう女性は数人の頬を両手で挟んで「感激〜〜」と言ったり、いきなりぶちゅーーと額にキスしてきたりで、数人はそれから逃れようと必死だった。

「や、やめ、やめてください!!」

「あらヤダ、ごめんなさいね、つい」

「…い、いーですけど」

「ああ〜そんな優しいトコなんてヒメコちゃんそっくりね〜〜!」

 ヒメコというふざけた名前の女は、確かに数人の母親だ。

「あ、そうだ!初めてのご対面なのよね!ほら、あそこにいるイッちゃんが貴方のお相手なのよ〜〜」

 その台詞に「へ?」と思いながらも数人は彼女が指差す方を見た。その方向にはさっきの兄妹が揃って立っていて、数人はさらに頭の上にはてなマークを飛ばすしかない。

「相手?」

「そうよー。結婚する相手よ!」

 そういえば!と数人はもう一度兄妹の方に顔を向ける。確かに自分は「結婚しろ」と言われてここに来たわけだが、彼女が指差す方向にいる二人に、ああ、冗談だったのか〜と数人は胸を撫で下ろした。何故ならそこにはまだ小学生だろう女の子しかいない。

「アハハ、そうですねえ、でもあと4、5年は経たないと僕とあのコは結婚はできないですよ」

 日本で定められている結婚できる最低年齢は男が18歳、女は16歳だ。

「あらやだ、あのコはもう18よ?」

「は!?」

 あ、あれで?!と数人は目を疑いたくなる。だが女性がそういったことに敏感なことは、先ほどからよく話に出てくる母親のおかげで数人はよーく知っていた。年を一つ間違えただけで、その日の夕食が味噌汁だけだったことすらある。

 だが、それにしても、である。

「あの、どうして僕とあのコが結婚することに・・・」

「うっせえなあ、生まれたときから決まってるもんは仕方ねーだろうが。大体『あのコ』ってな、てめーと俺は同い年だっつーの」

 ……ん?

 なんか今、よくわからないことを言われたような。

「…あ、あの別に俺はアンタのことを『あのコ』って言ってたワケじゃなくて、その女のコのことを言ってたんだけど」

「ハ?どうして私と貴方が結婚するのよ。結婚するのはお兄ちゃんと貴方でしょ?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 ちょっと待て。落ち着け、俺。
 ぐるぐるする頭をなんとか冷静にさせようと数人はぎゅっと目を瞑る。そして目を開け、もう一度その兄妹の兄の方を見やった。

「・・・・・あ、あの失礼を承知で聞くんですが・・・身長はいかほど」

「はあ?183だけど」

「ひゃくはちじゅうさん!?・・・ま、まあいいです。じゃあ体重は…?」

「ああ?…あーー確か73」

 やはり、やはりと数人は思う。

 あれで、あんなナリで女なのか!?と。

「・・・・あ、あのですね、俺は身長は174しかないし、体重も60あるかないかです。なので、貴方より断然体つきがよくない男なわけです。あの、貴方はす、すばらしい体型の女性だとは思うんですが、俺では物足りな」

 

「ぶははははははははははははははは!!!」

 

 いきなり当の兄(数人にとっては姉)が腹を抱えて笑い出し、数人は何を言おうとしたのかすら忘れて、狂ったように笑い転げる男(数人にとっては女)を見た。

「お、お前、ば、バカじゃねえの!?俺がどーやったら女に見えんだよ」

 それを聞いて、やっぱり違うじゃないか!と数人は誰に対してかわからない怒りに震えた。

「な、なら、俺とお前が結婚なんてできるはずないじゃないか!俺はごらんの通り男だし、お前も男なんだから!」

 そう言うと、その男はさらに噴出し、それこそ堪えきれないかのようにまた笑い出した。

 そんな男を見ながら、数人は目の前のちゃぶ台(というには立派すぎるが)をひっくり返したくなる衝動をなんとか堪えていた。

 

 

 



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