18 −side k−
本当は、それでもいいと思っていた。
蕗子にできなかったことを蓮にしてやるんだと自分の中で理由をつけて、ひどく自分勝手な自己犠牲の精神で、蓮の「相良」の代わりになってもいいと思っていた。
あれほど――俺が「相良」に見えて、俺と「相良」の境界が分からなくなるほど、彼に焦がれていた蓮の、愛した人間になってやってもいいと。
でも、本当はそうじゃなかった。
ただ、蓮を愛しただけだ。
誰より俺が大事だと言ってくれた蓮を、それが本当は俺に向けられたものでなくても、それでも、どうしようもなく愛してしまっただけだ。
結局、俺は蕗子も、蓮も助けてはやれなかった。
いや、助けるということ自体おこがましかったのかもしれない。去年の秋、蕗子に泣きながら言われたように、俺は何もなかったように振舞えばよかったのだ。
俺と蓮の間には、「相良」という人間を介した関係しかなかったんだと。
だが、そうするには、俺は蓮を愛しすぎた。
蓮が俺を思い出してくれたことに、どうしようもなく見えない何かに感謝したいと思うほどには、俺は蓮を愛した。
多分、蓮は俺を好きなんだろう。
俺自身を、ちゃんと好きになってくれたんだろう。
でも、例えそうでも、俺は絶対に蓮を信じ切れない。
狂ってしまえるほど愛した人間に似ているらしい俺を、蓮が「俺」だからこそ好きなんだということを、俺は一生疑い続ける。
例え蓮が本当に俺を好きだとしても、俺は蓮の気持ちを疑い、勝手に傷つき、蓮を信じることができない。
それに、蓮はきっと、俺を愛しているとは言わない。
波照間島で、蓮が気を失う直前に聞こえたその言葉は、一生に一度しか言えないだろうと思えるほど、あまりに切実だった。
「ご、めん、蓮。俺は、何もできなかった」
そう呟いて、そして、どこまでも傲慢な自分への嫌悪に吐き気がした。
結局、俺は蓮を信じることができないことに、自分が耐えられないだけなのだ。
蓮は、本当に俺を想ってるのか?
蓮は、今誰のことを考えてる?
蓮は、誰を思って俺を抱きしめてる?
そんな、考えれば考えるほどどうしようもないような思いを抱え続けることに、耐え切れないだけだ。
目を上げれば、出会った時と変わらない蓮の茶色の瞳と目があった。
その目は、確かに今は俺のことだけを見ていて、そのことにこんなにも安堵する俺は、多分蓮と一緒にいることはできない。
そう思って、これで蓮とも終わりなんだと今更気づいて、堪え切れずに涙が出た。
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