ひかり









 それだけなら、願ってもいいだろう?









 

「今日もいい天気だねぇ!!」

 とある高校の前には長い坂道がある。というより、その坂道のいちばん下が高校の校門で、てっぺんに高校がそびえたっているのだ。
 朝の7時、まだ誰も登校していないその坂道のちょうど真ん中で、大声でそう叫ぶ男がいた。
 通称ナギ。またの名を変人。本名を朔田凪というが、多分それを知っている生徒はほとんどいない。だが、彼のまたの名を知っている生徒は多分ここの生徒の9割を占める。
 顔は平々凡々、体つきも並。高校という場所で、生徒の一人が際立って目立つ大きな理由はその容姿であることがほとんどだが、ナギは全くもって目立った容姿はしていない。次に目立つ理由として挙げられるのが成績優秀であることだが、ナギの成績ははっきり言って地の底を這っている。なんとか補習を受けないですむ位置には落ち着いているが、ナギの順位から2位下がれば補習組、というのが常だった。なら何故か?さらに挙げられるのはスポーツに秀でていることだが、ナギは自他共に認める運動音痴である。
 では、なぜ?
 その答えは、ナギの1日の行動を見ていれば、きっと今日転校してきたばかりの転校生でも分かるにちがいなかった。

 まず朝ナギがすることは、誰もいない坂道の真ん中で、その両脇に生えているケヤキの木への挨拶だ。高校創立とともに植えられたケヤキの木は見事な幹を誇っていて確かに感心するものではあるが、木に対して挨拶する人間などそうそうお目にかかれるものではない。
 その後、ナギはまっさきに教室に向かい、HRが始まる8時20分までひたすら眠っている。教室の後ろに寝袋を持参して。クラスメイトは最初こそその事実に目を剥かんばかりに驚いていたものの、それが1ヶ月も続けば慣れるというものだ。今ではその寝袋をまたいで他の友人と話ができるほどにすらなっている。
 昼食の時間になると、ナギは真っ先に食堂に行き、必ずヤキソバパンを二つ頼む。ナギは現在高校2年だが、今まで一度足りとてヤキソバパン以外を買ったことはない。ヤキソバパンが売れ切れるとその日ナギは何も食べずに午後の授業に臨むのだ。そのことに嫌が応でも気付かざるを得ない食堂のおばさんたちは、ある意味根負けした形で、いつもその運痴のせいで人ごみに押され負けてしまいがちなナギのために、必ずヤキソバパンを二つ確保してあげることにしている。
 授業中。その時間はナギの変人ぶりが遺憾なく発揮される時間だ。挙手を求められてもいないのに手を挙げ、教師がしぶしぶナギを当てると、その問いとはまったく関係のないことをペラペラ喋りだす。今までで一番ひどかったのは、ある積分の問題を解くように教師が指示したというのに、一体どこの国の文字なのかも分からないような言葉をつらつらと黒板に書き連ね、突然ルネサンスの天才レオナルド・ダ・ヴィンチについて延々35分を話し続けたことだろう。それ以来、教師はどんなにナギが手を挙げていても、そしてナギだけしか手を挙げていなくても、絶対にナギに視線を合わせないようにしている。
 放課後、ナギはまたもやあの寝袋を取り出し、下校する生徒を尻目に教室の後ろで眠りに入る。ナギがその寝袋から出て帰るところを見た生徒はこれまで数少ないが、そのうちの一人が言うには、どうやら守衛のおじさんに揺すり起こされていたということだった。

 以上が、とりあえず大抵の生徒の目につく朔田凪の変人ぶりである。
 当然のようにこれ以外にも変人エピソードはこれでもかとあるらしいが、これだけでもナギの変人さをほとんどの生徒が知るには十分だった。

  

そんな、変人こと朔田凪が、放課後ふらりとある街に立ち寄ったところから、物語は始まる。

 

 




HOME  TOP  NEXT

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送