<君に贈る7つの存在 第2番>




どうして罰を待ち望むのですか


 

「…とりあえず、血拭けよ」

 息をつめたまま、芹はそう言って肩を掴んでいた航の手を外した。そして、伏せたままの航の顎をくいと持ち上げ、親指の腹で航の口元を撫ぜる。すると当然そこには血がついて、航は思わず芹の手を掴んだ。

「やめ、ろ。血がつくから」

「血ぃ拭いてんだから、つくだろうよ」

「いいよ。…汚れる」

 そう言って、航は血のついた芹の手を洗面台まで下ろし、蛇口を捻った。芹の指の上から流れ落ちる水流はすぐに航の血を流し、芹の親指は元の綺麗なそれに戻る。そうなることを知っていたにも関わらず、何故かついた血が二度と芹から拭えないような気がしていた航は一つ安堵の息を吐いた。

「なあ」

「…ん?」

「――それでも、あいつを愛してるか?」

 すごいことを聞く。そう思ったのは確かなのに、航はなぜかその台詞に驚けなかった。
 綺麗になった芹の手を離し、近くにあったタオルを手渡してやる。だが、芹はそれを受け取ろうとはせず、答えを待つかのようにじっと航の顔を見つめた。
 ふ、と小さく笑みがこぼれた。
 そんな航に芹はわずかに目を見開く。そして、目を見開いたままの芹に、航は、静かに口を開いた。

「愛してるよ」

「―――」

「できることなら、幸せにしてやりたかった」

 そう言って、航はもう一度芹に微笑む。


 その笑みほど美しいものを、芹はほかに知らない。








 「プラトニック・スゥイサイド」


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