<君に贈る7つの選択 第7番> −「鬼切」




君の死で世界が救われるとしたら 君はいのちを捧げますか


 

「貴方が死んだら、きっと私は狂うでしょうね」

 いきなり何を言い出すんだと、直知は己の隣に佇む男を見た。
 その顔には、出会ったときから変わらない、その内を見せない笑みが乗せられている。別に笑っているつもりはないんですけどね、と話したのは、いつのことだったろうか。もうずいぶん前のことには違いないだろうが。
 何も言えないでいる直知の前に、蜂谷は静かに膝をつく。どうして隣に座らないんだという台詞が喉まで出掛かったが、己の膝の前で顔を伏せる蜂谷を見て直知はやはり口を開くことはできなかった。

「時々、思うんですよ」

 トン、と直知の膝の上に蜂谷の頭が乗る。長めの黒髪が散って、何故か何時に無く綺麗だと直知は感じた。

「私のせいで命を落としそうになったことが、何度もあるでしょう?けれど、私は貴方を離すつもりはないし、貴方もそのつもりはない」

 ――よく分かっているじゃないかと、直知は蜂谷の髪を梳く。その感触に、蜂谷は気持ちよさそうに目を閉じた。

「…たとえば」

「…え?」

「たとえば、俺が死ねば、誰かが――ああ、世界とかが救われるとしても、俺は、死なない」

「………」

「でも、俺が死ねばお前が救われるんなら、俺は、死ぬよ」

「ナオ、チ、さん」

「で、お前は俺が死んだら狂うんだから、俺は、死なない」

 ああ、己にとっては、なんて簡単な命題。
 そんな状況になる確率はほとんどないだろうが、それでも、そうなった時には自分は今言ったとおりにするだろうと直知は確信していた。
 たとえそうすることで、世界中の人間に詰られ、責められ。そして、最後には嬲り殺されたとしても。
 それでも、己は、目の前の男以外のもののために、命を捧げることはないだろう。

「ラブラブですね、私たち」

「…30超えたオッサンが言うセリフじゃない」

 クスクスと、小さく笑いあう。

 

 Q.君の死で世界が救われるとしたら 君はいのちを捧げますか?
 A.―No.

 

 すべては、貴方のもの。







「鬼切」 


HOME  TOP


 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送